スティーブン・ウォーカー「ナガサキ―忘れられた爆弾」
スティーブン・ウォーカー「カウントダウン・ヒロシマ」(横山啓明訳・早川書房 )
原書ペーパーバック版の付録エッセイより。本文ではくわしく書かれなかった長崎への原爆投下について、元乗員へのインタビューをもとに再現している。以下はその最後の部分の抜粋。長崎への原爆投下は視界不良のため難航し、ようやくの投下後、B29爆撃機「ボックスカー」は燃料がぎりぎりの状態での帰還を余儀なくされる。
—
多く見積もっても、一回の着陸動作にかろうじて足りるだけの燃料しか残っていなかった。スウィーニーは使える救難信号を全部点火するよう命じた。発煙信号はスピッツァーいわく「独立記念日のお祝いみたいに」あらゆる色でどっと噴き出し、それぞれの色が別々の緊急事態を知らせていた。「負傷者あり」、「重篤な損傷」、「機に火災発生」。火薬のきつい臭いがコックピットに充満する。スウィーニーが機を滑走路へと向ける最中、第二エンジンが咳き込み、停止した。
機は高速ではげしく滑走路に叩きつけられた。60トンあまりの肉体と金属がコンクリートの上で鋭い悲鳴をあげた。機体は乱暴に左へ振れ、駐機している爆撃機の列に突っ込みそうになる。ふたりのパイロットはどちらも全体重をブレーキにのせ、プロペラを逆回転に叩き込んだ。巨大な爆撃機はようやく速度を落としはじめ、滑走路の終端ぎりぎりで停止した。救急車と消防車が機にむかって疾走する。ドアが開き、男が機内に首をつっこんだ。
「死傷者はどこだ?」
疲れきったスウィーニーは北の方、長崎のある方角を顎で示した。
「あっちだよ」
一ヶ月後、ドン・オルバリーをはじめとするボックスカーとエノラ・ゲイの乗員たちは長崎へ飛んでいた。彼らが長崎の地に足を踏み入れた最初のアメリカ人になったのだ。眼前の光景はオルバリーを打ちのめした。あまりにとてつもない破壊の規模だった。
「壊滅状態だった」とオルバリーは語る。
「立っていたのはコンクリートのビルが数軒だけだった。死体は見あたらなかったが、一軒の病院で見た。外の地面に並べられてたよ」
オルバリーはしばし言葉をきり、窓の外に顔をむけた。重苦しささえ感じさせる沈黙のあと、ようやく彼はこちらに向きなおった。
「戦争がおわったのが、ただただ嬉しかった」
とても小さな声でそう言った。
「どういうふうに始まったかなんてどうでもよかった。とにかく家に帰りたかった」
Stephen Walker on Nagasaki — the Forgotten Bomb
from Shockwave : Countdown to Hiroshima Harper Perennial 2006